リハビリコラム
どうする?大腿骨を骨折した後のリハビリ~効果的な方法とは~
ARUKONECT (アルコネクト)
代表の市川です!
骨折は大腿骨のどの部分でも
起きる可能性はありますが、今回は
大腿骨近位部骨折(つけ根に近い部分)を
中心にお話できればと思います。
以前のコラムで、大腿骨骨折後の
機能回復についてをコラムで
説明しました。
>大腿骨を骨折するとどうなる?
~機能回復の予測~
今回のコラムはリハビリがテーマです!
1.効果的なリハビリとは?
Pan, Rong-Jia らは股関節機能・
日常生活動作・歩行などの項目に
分けて運動ベースのリハビリに
おいて、どれが有効なのかを
検証しています。
1)股関節機能
レジスタンストレーニング(筋トレ)や
バランス練習が有効であったと
しています。
2)日常生活動作
バランス練習や体重負荷練習が
有効であったとしています。
3)その他
バランスに対してはバランス練習、
歩行能力に対してはレジスタンス
トレーニング(筋トレ)が有効と
しています。
私の解釈としては、大腿骨を
骨折した後のリハビリにおいて、
レジスタンストレーニングと
バランス練習の2つは必須だと
いうことかなと思っています。
ここから、特におすすめである
レジスタンストレーニング(筋トレ)と
バランス練習を説明します!
2.レジスタンストレーニング
Ramadi, Ailar らによって
レジスタンストレーニングの効果に
ついて検討されています。
その結果、筋力のみならず、
歩行速度を向上させる効果が
期待できることが報告されています。
特にトレーニングの負荷は、
重要な要素であったとしています。
「やっているのに効果が・・・」
という方は負荷が適切なのか
チェックが必要ですね。
3.バランス練習
Wu, Jia-Qi らによると、
身体機能、バランス、歩行、
日常生活動作など幅広い範囲で
効果があるとしています。
バランス能力は、日常生活の動作を
行うにあたってとても重要な
要素の1つです。
そのバランス能力を検査する方法は
多くありますが、その1つに
ベルグバランススケール(BBS)があります。
この検査を行うとバランス能力を
点数化して表すことができます。
56点満点で、点数が高いほど
バランス能力が高いと判断します。
そんなBBSですが、
入浴自立や病院を退院するときの
歩行自立を予測する基準点(カットオフ)が
算出されています。
Fujitaらによれば、大腿骨頸部骨折を
受傷された患者さんが入浴を自立する
カットオフは43点としています。
一方で、Tamuraらによれば、
退院時の歩行を自立するためには28点、
見守り(付き添うが介助なし)では21点が
カットオフとしています。
最終的にはバランスだけでなく、多方面から
評価を行い自立を検討するのですが、
参考になりそうですよね。
※カットオフの詳しい話をすると
ややこしくなるので、ここでは
避けたいと思います。
決して、この点数に及ばないから
100%自立できない、そんなことは
ありません。
このあたりは、リハビリ専門職による
評価を含めた情報の吟味が必要かと
思いますし、専門職として重要な
能力なのかなと思っています。
まとめると・・・
大腿骨を骨折した後のリハビリにおいて、
レジスタンストレーニングとバランス練習は
外せないのかなと思います。
ただし、整形外科の医師の指示に合わせて
リハビリを行うことが重要です。
リハビリ専門職としても、単に
”効果があるからこのリハビリを行う”
のではなく、評価から時期を含めて
適切なリハビリを提案・提供することが
大事だと思います!
本コラムが少しでも皆さまの
お役に立てましたら幸いです。
最後までお読みいただき
ありがとうございました。
(執筆日:2024年4月4日)
(執筆者:市川 貴章)
参考文献
1)Pan, Rong-Jia et al.
“The effectiveness of optimal exercise-based
strategy for patients with hip fracture:
a systematic review and Bayesian network
meta-analysis.” Scientific reports
vol. 13,1 10521. 29 Jun. 2023, doi:10.1038/
s41598-023-37509-y
2)Ramadi, Ailar et al.
“Progressive Resistance Training Program
Characteristics in Rehabilitation Programs
Following Hip Fracture: A Meta-Analysis and
Meta-Regression.” Geriatric orthopaedic surgery
& rehabilitation vol. 13 21514593221090799.
2 May. 2022, doi:10.1177/21514593221090799
3)Wu, Jia-Qi et al.
“Efficacy of balance training for
hip fracture patients: a meta-analysis of
randomized controlled trials.”
Journal of orthopaedic surgery and research
vol. 14,1 83. 20 Mar. 2019, doi:10.1186/
s13018-019-1125-x
4)Fujita, Takaaki et al.
“Balance Function Required for Bathing
Independence in Patients with Stroke and
Hip Fracture.” Progress in rehabilitation medicine
vol. 8 20230028. 16 Sep. 2023, doi:10.2490/
prm.20230028
5)Tamura, Shuntaro et al. “Development of
Cut-off Values on the Berg Balance Scale for
Predicting Walking Independence in Older
Adults with Hip Fracture.” Progress
in rehabilitation medicine vol. 7 20220043. 27
Aug. 2022, doi:10.2490/prm.20220043
大腿骨を骨折するとどうなる?~機能回復の予測~
ARUKONECT (アルコネクト)
代表の市川です!
本コラムでは、大腿骨を骨折した後の
機能回復の予測を解説します。
骨折はどの部分で生じる可能性はありますが、
今回は大腿骨近位部骨折(つけ根に近い部分)に
焦点を当てたいと思います。
大腿骨近位部骨折は、大腿骨頸部骨折と
大腿骨転子部骨折に分けられます。
そのほとんどは、転倒や転落などが
きっかけになり、ガイドラインによれば、
全国で17万人の方が受傷したと
公表されています。
データ自体が10年以上前であるため、
現在と変わっているのかも知れませんが、
私としては多いなと感じました。
回復の予測
Beckmannらが骨折前の状態に
回復した方の割合を調査しています。
・日常生活動作 31%
・移動能力 34%
・階段 41%
この調査は骨折後1年の経過を
追っていますが、大腿骨を骨折すると、
日常生活に関わる動作に影響が
あり、残存する可能性があることが
わかります。
そして機能回復に影響がある要因として、
①高齢であること
②認知症を患っていること
③骨折以外に病気を患っていること
(チャールソン併存疾患指数>2)
などを挙げています。
一方、Ouelletらによれば、
日常生活動作の回復には、
①認知症を患っていること
②せん妄があること
③ヘモグロビン値が低いこと
移動能力の回復には、
①せん妄があること
②服薬数(抗不安薬や抗うつ薬など)
③高齢であること
などが影響すると報告しています。
さらにVergaraらは、身の回りの動作
(BADL)と買い物や家事などの
応用的な動作(IADL)に分けて
検討しています。
その結果、年齢、脳血管疾患(脳卒中など)、
骨折前の股関節機能・痛みなどが回復に
影響すると報告しています。
このように骨折後の機能回復に関しては、
様々な要因が絡んできます。
ここで注意したいのは、
あくまで”予測である”という点です。
すべての患者さんが全く同じ経過を
辿るということはありませんし、
回復に関係する要因に当てはまるから
回復しないということも
ありません。
リハビリの効果については、ガイドラインに
合わせて、システマティックレビューや
介入研究などで確認が必要だなと
思います。
リハビリについては、改めてコラムで
書く予定です。
この記事を書いていて、
「そもそも転倒・転落を予防できれば
骨折の患者さんの人数を減らせるのでは?」
とふと思いました。
調べてみると骨折の前兆として、
日常生活動作能力の低下があると
Ravensbergenの報告がありました。
しかし、どのように検出し、課題を
解決していくのかは大きな問題だと
感じました。
本コラムが少しでも皆さまの
お役に立てましたら幸いです。
最後までお読みいただき
ありがとうございました。
(執筆日:2024年4月1日)
(執筆者:市川 貴章)
参考文献
1)日本整形外科学会診療ガイドライン委員会,
他(編)・日本整形外科学会,他(監):
大腿骨頸部骨折/転子部骨折の疫学-
骨折型別発生率の変化,大腿骨頸部骨折/
転子部骨折診療ガイドライン,改訂第3版,2021
2)Beckmann, Monica et al.
“Recovery and prediction of physical function
1 year following hip fracture.
” Physiotherapy research international :
the journal for researchers and clinicians
in physical therapy vol. 27,3 (2022):
e1947. doi:10.1002/pri.1947
3)Ouellet, Jennifer A et al.
“Functional Outcomes After Hip Fracture
in Independent Community-Dwelling Patients.”
Journal of the American Geriatrics Society
vol. 67,7 (2019): 1386-1392.
doi:10.1111/jgs.15870
4)Vergara, Itziar et al.
“Factors related to functional prognosis
in elderly patients after accidental
hip fractures: a prospective cohort study.
” BMC geriatrics vol. 14 124. 26 Nov. 2014,
doi:10.1186/1471-2318-14-124
5)Ravensbergen, Willeke M et al.
“Declining daily functioning as a prelude
to a hip fracture in older persons-
an individual patient data meta-analysis.
” Age and ageing vol. 51,1 (2022):
afab253. doi:10.1093/ageing/afab253
知っておきたい! パーキンソン病の患者さんが転倒する原因とその対策
こんにちは!
歩行専門の自費リハビリ施設
ARUKONECTの代表 市川です。
本コラムではパーキンソン病の患者さんの
転倒する原因とその対策を解説します。
パーキンソン病の患者さんが転倒する原因
パーキンソン病の患者さんの約60%が
転倒すると言われており、最悪の場合、
骨折することもあります。
そのため、転倒を予防することは
社会全体の課題なのかなと思います。
転倒の原因を論文を参考に詳しくみて
いきましょう!
Muruetaらによれば・・・
・転倒歴 (過去に転倒したことがある)
・歩行能力の低下
・バランス能力の低下
以上の場合に転倒しやすいとしています。
Liuらによれば・・・
転倒の要因を5つの領域に分けています。
①身体機能
下肢(脚)の筋力低下、すくみ足、
バランス低下 など
②既往
転倒歴、基礎疾患の長期経過がある など
③環境
濡れた床、不整地、高い障害物、
暗い場所 など
④薬物療法
レボドパの服用によって、転倒に関する
合併症を減らせる
⑤認知
自信過剰、転倒恐怖感がある など
以上のように転倒は様々な要因によって
起きるものであり、一つの原因に限らない
としています。
転倒を予防するための方法
Canningらによれば・・・
<実施内容>
・バランストレーニング
・筋力トレーニング
<頻度・時間>
週3回・40~60分/回
運動症状が軽度※1の患者さんの転倒を
減らせたと報告しています。
※UPDRS-Ⅲのスコア 26点以下
Sparrowらによれば・・・
<実施内容>
・筋力トレーニング
・BESTest(バランス検査)に合わせた
バランストレーニング
<頻度・時間・期間>
週2回・90分/回・12週間
転倒回数や転倒発生率を減らせたとしています。
Chivers らによれば・・・
<実施内容>
・PDSAFE(転倒予防プログラム)
<回数・時間・期間>
12セッション・60分~90分・6ヶ月
転倒しそうになった回数を減らし、
バランス能力、転倒恐怖感などの改善が
得られたとしています。
しかしながら、すくみ足や認知障害があると、
介入効果が少なくなったとも報告しています。
一方で効果が得られなかった報告もあります。
Morrisらによると・・・
主に筋力トレーニングを行った場合は、
転倒率には変化が得られなかったとしています。
まとめると・・・
Liuらの報告のように、原因は様々です。
単一の方法では効果が頭打ちになる可能性が
あり、患者さんの病状を包括的にとらえて
対応することが大切なのかなと思います。
つまり運動だけでなく、状況に応じて
手すりや照明の設置、段差の解消などの
環境面の整備、お薬の調整(医師との相談)
など生活を見据えた対応が必要なのかなと
思います。
本コラムではパーキンソン病の患者さんが
転倒する原因とその対策を解説しました。
本コラムが少しでも皆さまの
お役に立てましたら幸いです。
最後までお読みいただき
ありがとうございました。
(執筆日:2023年12月2日)
(更新日:2024年5月25日)
(執筆者:市川 貴章)
参考文献
1)Murueta-Goyena A, Muiño O, Gómez-Esteban JC.
Prognostic factors for falls in Parkinson's disease:
a systematic review. Acta Neurol Belg. 2023
Nov 28. doi: 10.1007/s13760-023-02428-2.
Epub ahead of print. PMID: 38015306.
2)Liu, Wen-Yi et al.
“Systematic review for the prevention and management
of falls and fear of falling in patients with
Parkinson's disease.” Brain and behavior
vol. 12,8 (2022): e2690. doi:10.1002/brb3.2690
3)Canning, Colleen G et al.
“Exercise for falls prevention in Parkinson disease:
a randomized controlled trial.” Neurology
vol. 84,3 (2015): 304-12. doi:10.1212/WNL.0000000000001155
4)Sparrow, David et al.
“Highly Challenging Balance Program Reduces
Fall Rate in Parkinson Disease.” Journal of
neurologic physical therapy : JNPT
vol. 40,1 (2016): 24-30. doi:10.1097/NPT.0000000000000111
5)Chivers Seymour, Kim et al.
”Multicentre, randomised controlled trial of PDSAFE,
a physiotherapist-delivered fall prevention programme
for people with Parkinson's.” Journal of neurology,
neurosurgery, and psychiatry vol. 90,7 (2019): 774-782.
doi:10.1136/jnnp-2018-319448
6)Morris, Meg E et al.
“A home program of strength training, movement strategy
training and education did not prevent falls in people with
Parkinson's disease: a randomised trial.” Journal
of physiotherapy vol. 63,2 (2017): 94-100.
doi:10.1016/j.jphys.2017.02.015
脳卒中患者さんのバランス能力に対するリハビリ
こんにちは!
歩行専門の自費リハビリ施設
ARUKONECT (アルコネクト)の代表
市川です!
本コラムでは脳卒中患者さんのバランス能力に
対するリハビリを解説したいと思います。
脳卒中患者さんの約80%に
バランス能力の低下がみられると
言われています。
バランス能力改善のために、
バランストレーニングや歩行練習を
行うことが多くあります。
しかしバランストレーニングや歩行練習の
方法は様々あるため、どのような
練習がバランス能力改善に良いのか
わかりません。
しかもバランスと一言でいっても、
①動的バランス
→体を動かしながらバランスを保つ
②静的バランス
→体を動かさずにバランスを保つ
③プロアクティブバランス
→体の動きを予期してバランスを保つ
④リアクティブバランス
→バランスを崩れた状態から回復する
バランスって複雑ですよね。
もしかしたらトレーニングの方法で
改善の得られるものが違うのかも知れません。
今回はZhang らの論文を
紹介したいと思います!
Zhang らは脳卒中患者さんの
バランストレーニングや歩行練習の
効果を検証するために以下4つの
バランスに対する効果を調べました。
①バランス検査の結果
②動的バランス
③静的バランス
④プロアクティブバランス
そして・・・
介入方法としては、バランストレーニング・
歩行練習だけでなく、トレッドミル・ロボット・
外部キュー(視覚や聴覚など用いて)などを
組み合わせて行われた研究も
含まれていました。
その結果・・・
・バランス検査の結果
・動的バランス
・静的バランス
・プロアクティブバランス
それぞれで効果的な介入方法が
違うことが明らかになりました。
つまり・・・
どのバランス能力に目標を定めるかによって
介入方法を変える必要があると
言えます。
この論文を読んで・・・
バランス検査の結果に囚われすぎないことも
大事かなと思いました。
なぜなら、バランス検査の結果に影響を
与えた介入方法と、その他のバランス
(動的バランス・静的バランス、プロアクティブバランス)
に影響を与えた介入方法には共通しない場合が
あるからです。
その点を踏まえると、実生活を見据えた
効果的な練習ができるのかなと
思いました。
本コラムでは脳卒中患者さんのバランス能力に
対するリハビリを解説しました。
本コラムが皆さまの何かの
お役に立てましたら幸いです。
最後までお読みいただき
ありがとうございました。
(執筆日:2023年12月1日)
(執筆者:市川 貴章)
参考文献
1)Zhang M, Liang Z, Li Y, Meng J, Jiang X,
Xu B, Li H, Liu T.
The effect of balance and gait training on
specific balance abilities of survivors
with stroke: a systematic review and
network meta-analysis. Front Neurol. 2023
Nov 2;14:1234017. doi: 10.3389/fneur.2023.
1234017. PMID: 38020595; PMCID: PMC10653323.
変形性膝関節症の患者さんに対する運動と生活習慣の修正
こんにちは!
歩行専門の自費リハビリ施設
ARUKONECT (アルコネクト)の代表
市川です。
本コラムでは変形性膝関節症の
患者さんに対する運動と生活習慣の修正の
効果を解説したいと思います。
今回はSattlerらの報告を
紹介したいと思います!
この論文はシステマティックレビュー、
メタアナリシスというタイプです。
いわば論文の総集編、似たような論文を
集め、検討したものです。
※論文を集めたり、どの論文を採用するのか
どうかなど検討をしています。
Sattlerらは・・・
変形性膝関節症の患者さんに対して、
従来の運動療法に加えて生活習慣の
修正を行った場合、どのような効果が
あるのか検証しています。
運動とは?
この研究では、採用された論文の全てで
脚の筋力トレーニングが行われていました。
生活習慣の修正とは・・・
・変形性膝関節に関する教育
・痛みへの対処法
・減量
・食事のアドバイス(レシピ・献立など)
以上の内容などが含まれていました。
その結果・・・
運動に加えて生活習慣の修正を行うと
痛み・関節の固さ、身体機能が
運動のみを行うのと比べて、
改善が見られたとしています。
この論文を読んでみて・・・
結果をみると、痛みや関節の固さに関しては
効果が得られにくい場合があるのかなと
感じました。
専門的に・・・
95%信頼区間の片一方が
0に近いためからです。
変形性膝関節症は生活習慣との関連は
以前から言われていましたので、
やはり、状況によって生活習慣の修正も
必要なのかも知れません。
本コラムでは変形性膝関節症の患者さんに
対する運動と生活習慣の修正の
効果を解説しました。
本コラムが少しでも皆さまの
お役に立てましたら幸いです。
最後までお読みいただき
ありがとうございました。
(執筆日:2023年11月30日)
(執筆者:市川 貴章)
参考文献
1)Sattler L, Kan A, Hing W, Vertullo C.
The addition of structured lifestyle modifications
to a traditional exercise program for the management
of patients with knee osteoarthritis:
A systematic review and meta-analysis of
randomised trials. Musculoskelet Sci Pract.
2023 Nov;68:102858. doi: 10.1016/j.msksp.2023.
102858. Epub 2023 Sep 29. PMID: 37793243.