リハビリコラム
知っておきたい! パーキンソン病の患者さんが転倒する原因とその対策
こんにちは!
歩行専門の自費リハビリ施設
ARUKONECTの代表 市川です。
本コラムではパーキンソン病の患者さんの
転倒する原因とその対策を解説します。
パーキンソン病の患者さんが転倒する原因
パーキンソン病の患者さんの約60%が
転倒すると言われており、最悪の場合、
骨折することもあります。
そのため、転倒を予防することは
社会全体の課題なのかなと思います。
転倒の原因を論文を参考に詳しくみて
いきましょう!
Muruetaらによれば・・・
・転倒歴 (過去に転倒したことがある)
・歩行能力の低下
・バランス能力の低下
以上の場合に転倒しやすいとしています。
Liuらによれば・・・
転倒の要因を5つの領域に分けています。
①身体機能
下肢(脚)の筋力低下、すくみ足、
バランス低下 など
②既往
転倒歴、基礎疾患の長期経過がある など
③環境
濡れた床、不整地、高い障害物、
暗い場所 など
④薬物療法
レボドパの服用によって、転倒に関する
合併症を減らせる
⑤認知
自信過剰、転倒恐怖感がある など
以上のように転倒は様々な要因によって
起きるものであり、一つの原因に限らない
としています。
転倒を予防するための方法
Canningらによれば・・・
<実施内容>
・バランストレーニング
・筋力トレーニング
<頻度・時間>
週3回・40~60分/回
運動症状が軽度※1の患者さんの転倒を
減らせたと報告しています。
※UPDRS-Ⅲのスコア 26点以下
Sparrowらによれば・・・
<実施内容>
・筋力トレーニング
・BESTest(バランス検査)に合わせた
バランストレーニング
<頻度・時間・期間>
週2回・90分/回・12週間
転倒回数や転倒発生率を減らせたとしています。
Chivers らによれば・・・
<実施内容>
・PDSAFE(転倒予防プログラム)
<回数・時間・期間>
12セッション・60分~90分・6ヶ月
転倒しそうになった回数を減らし、
バランス能力、転倒恐怖感などの改善が
得られたとしています。
しかしながら、すくみ足や認知障害があると、
介入効果が少なくなったとも報告しています。
一方で効果が得られなかった報告もあります。
Morrisらによると・・・
主に筋力トレーニングを行った場合は、
転倒率には変化が得られなかったとしています。
まとめると・・・
Liuらの報告のように、原因は様々です。
単一の方法では効果が頭打ちになる可能性が
あり、患者さんの病状を包括的にとらえて
対応することが大切なのかなと思います。
つまり運動だけでなく、状況に応じて
手すりや照明の設置、段差の解消などの
環境面の整備、お薬の調整(医師との相談)
など生活を見据えた対応が必要なのかなと
思います。
本コラムではパーキンソン病の患者さんが
転倒する原因とその対策を解説しました。
本コラムが少しでも皆さまの
お役に立てましたら幸いです。
最後までお読みいただき
ありがとうございました。
(執筆日:2023年12月2日)
(更新日:2024年5月25日)
(執筆者:市川 貴章)
参考文献
1)Murueta-Goyena A, Muiño O, Gómez-Esteban JC.
Prognostic factors for falls in Parkinson's disease:
a systematic review. Acta Neurol Belg. 2023
Nov 28. doi: 10.1007/s13760-023-02428-2.
Epub ahead of print. PMID: 38015306.
2)Liu, Wen-Yi et al.
“Systematic review for the prevention and management
of falls and fear of falling in patients with
Parkinson's disease.” Brain and behavior
vol. 12,8 (2022): e2690. doi:10.1002/brb3.2690
3)Canning, Colleen G et al.
“Exercise for falls prevention in Parkinson disease:
a randomized controlled trial.” Neurology
vol. 84,3 (2015): 304-12. doi:10.1212/WNL.0000000000001155
4)Sparrow, David et al.
“Highly Challenging Balance Program Reduces
Fall Rate in Parkinson Disease.” Journal of
neurologic physical therapy : JNPT
vol. 40,1 (2016): 24-30. doi:10.1097/NPT.0000000000000111
5)Chivers Seymour, Kim et al.
”Multicentre, randomised controlled trial of PDSAFE,
a physiotherapist-delivered fall prevention programme
for people with Parkinson's.” Journal of neurology,
neurosurgery, and psychiatry vol. 90,7 (2019): 774-782.
doi:10.1136/jnnp-2018-319448
6)Morris, Meg E et al.
“A home program of strength training, movement strategy
training and education did not prevent falls in people with
Parkinson's disease: a randomised trial.” Journal
of physiotherapy vol. 63,2 (2017): 94-100.
doi:10.1016/j.jphys.2017.02.015
パーキンソン病患者さんに対するエクサゲームの効果
こんにちは!
歩行専門の自費リハビリ施設
ARUKONECT (アルコネクト)の代表
市川です。
本コラムではパーキンソン病患者さんに
対するエクサゲームの効果を解説したい
と思います。
エクサゲームとは?
エクササイズ+ゲームのことです。
ゲームを普段やっていない方も、
リングフィットアドベンチャーというゲームの
コマーシャルを見たことがあると思います。
このエクサゲームをリハビリとして取り入れ、
その効果を検証する研究は多くあります。
その中でも今回はMaranesi らの研究を
紹介したいと思います。
Maranesi らの論文では・・・
①通常のリハビリ+エクサゲーム(非没入型)
Tymo ®システムを使用。
②通常のリハビリ
この2つのグループに分けられ
効果が検証されました。
その結果・・・
2つのグループともにバランス能力が
改善したと報告しています。
2つのグループを比較した場合に、
エクサゲームを取り入れたグループの
方がバランス能力がより改善していた
こともわかりました。
最近では、デイサービスなどにswitch
(ニンテンドー)を導入している施設も
増えているようです。
ゲーム要素を取り入れることで、楽しみながら
リハビリできるのは良いですよね。
今後もエクサゲームについてをコラムで
紹介していきたいと思っています。
本コラムでは、パーキンソン患者さんに対する
エクサゲームの効果を解説しました。
本コラムが少しでも皆さまの
お役に立てましたら幸いです。
最後までお読みいただき
ありがとうございました。
(執筆日:2023年11月21日)
(執筆者:市川 貴章)
参考文献
1)Maranesi E, Casoni E, Baldoni R, at al.
The Effect of Non-Immersive Virtual Reality
Exergames versus Traditional Physiotherapy
in Parkinson's Disease Older Patients: Preliminary
Results from a Randomized-Controlled Trial.
Int J Environ Res Public Health. 2022
Nov 10;19(22):14818. doi: 10.3390/ijerph192214818.
PMID: 36429537; PMCID: PMC9690935.
パーキンソン病患者さんの方向転換
こんにちは!
歩行専門の自費リハビリ施設
ARUKONECT (アルコネクト)の代表
市川です。
本コラムではパーキンソン病患者さんの
方向転換についてを解説したいと思います。
パーキンソン病の患者さんの転倒は
そのほとんどが方向転換時に起きると
されています。
また症状が軽度であっても
まっすぐは歩けても、方向転換時に
バランスを崩してしまうという方も
いらっしゃいます。
ではパーキンソン病の患者さんが
方向転換をするときには、どのような
形(戦略)で行うのでしょうか?
今回はMelloneらの研究を
紹介したいと思います。
Melloneらの論文では・・・
①パーキンソン病の患者さん12名
②対照被験者さん19名
それぞれのグループには、直線歩行と
方向転換が組み合わさったコースを
歩いてもらい比較検討されました。
また歩行速度による差をみるために
「通常どおり」「速い」「ゆっくり」と
3つの速度での比較検討も行っています。
その結果・・・
パーキンソン病の患者さんは
(対照被験者さんに比べて)
方向転換がゆっくりであり、
大回りになることが明らかに
なりました。
方向転換時には支持基底面が
狭くなり、速い速度でターンしたときに
不安定さが増すと報告しています。
支持基底面とは?
身体を支えるために、接している体の部位や
杖などに囲まれた面のことです。
この支持基底面が広いと安定し、
狭いと不安定になります。
Melloneらはパーキンソン病の患者さんが
方向転換時に速度がゆっくりであり、
大回りになるのは、姿勢の安定性を確保
するために行っていると結論づけています。
方向転換をスムーズに行えるための
リハビリプログラムを立案する際に
活かせそうですよね。
バランスとの関係があるのであれば、
「バランス」の評価も詳細に行う必要が
ありそうです。
またKingらは方向転換に特化した
トレーニングを行うとどのような効果が
得られるのかを研究しており、その結果が
待たれるところです。
本コラムでは、パーキンソン患者さんの
方向転換についてを解説しました。
本コラムが少しでも皆さまの
お役に立てましたら幸いです。
最後までお読みいただき
ありがとうございました。
(執筆日:2023年11月20日)
(執筆者:市川 貴章)
参考文献
1)Mellone S, Mancini M, King LA,
Horak FB,Chiari L.
The quality of turning in Parkinson's disease:
a compensatory strategy to prevent postural instability?
J Neuroeng Rehabil. 2016 Apr 19;13:39.
doi: 10.1186/s12984-016-0147-4.
PMID: 27094039; PMCID: PMC4837520.
2)King LA, Carlson-Kuhta P, Wilhelm JL,
Lapidus JA, Dale ML, Talman LS,
Barlow N, Mancini M, Horak FB.
TURN-IT: a novel turning intervention program
to improve quality of turning in daily life in people
with Parkinson's disease. BMC Neurol. 2022
Nov 28;22(1):442. doi: 10.1186/s12883-022-02934-5.
PMID: 36443737; PMCID: PMC9703770.
パーキンソン病のすくみ足に対する運動の効果
こんにちは!
歩行専門の自費リハビリ施設
ARUKONECT (アルコネクト)の代表
市川です。
本コラムではパーキンソン病患者さんの
すくみ足に対する運動の効果を
解説したいと思います。
すくみ足とは・・・
”足がすくみ、足が前に
出せなくなること”を言います。
zhangらによれば、すくみ足は
Hoehn&Yahrの重症度分類や
固縮、UPDRSパート2・パート3の
得点と関係すると言われています。
※Hoehn&Yahrの重症度分類
パーキンソン病の進行度合いを
表すものです。
※固縮
筋肉のこわばりのことです。
例えば肘を伸ばそうとすると、
全可動域を通じて抵抗感が感じられます。
※UPDRS
(Unified Parkinson‘s Disease Rating Scale)
パーキンソン病の症状を詳しく調べる検査です。
全4パートから構成されます。
パート2は日常生活動作、パート3は
運動症状を調べるものです。
今回は、Silva-Batistaらの論文を
紹介したいと思います。
Silva-Batistaらの論文では・・・
①不安定性を伴うトレーニング
②従来のリハビリ
この2つに分けて、すくみ足に対する
効果を検証しています。
不安定性を伴うトレーニングとは・・・
バランスディスクやエクササイズボール、
フォームパッドを用いて、スクワットや
ランジを行うものです。
その結果・・・
不安定性を伴うトレーニングを行うことで
すくみ足が軽減されたと報告しています。
Ehgoetzらによるとすくみ足には・・・
①運動
②不安
③注意
この3つのサブタイプが存在すると
されています。
そのため、病態に基づいてリハビリの
方法も検討する必要があるのかなと
思います。
本コラムでは、パーキンソン病のすくみ足に
対する効果的な運動の効果を
解説しました。
本コラムが少しでも皆さまの
お役に立てましたら幸いです。
最後までお読みいただき
ありがとうございました。
(執筆日:2023年11月18日)
(執筆者:市川 貴章)
参考文献
1)Zhang F, Shi J, Duan Y, Cheng J, Li H,
Xuan T,Lv Y, Wang P, Li H.
Clinical features and related factors of
freezing of gait in patients withParkinson's disease.
Brain Behav. 2021 Nov;11(11):e2359.
doi: 10.1002/brb3.2359. Epub 2021 Sep 22.
PMID: 34551452; PMCID: PMC8613420.
2) Osborne JA, Botkin R, Colon-Semenza C,
DeAngelis TR,Gallardo OG, Kosakowski H, Martello J,
Pradhan S, Rafferty M,Readinger JL, Whitt AL, Ellis TD.
Physical Therapist Management of Parkinson Disease:
A Clinical Practice Guideline From the American
Physical Therapy Association.
Phys Ther. 2022 Apr 1;102(4):pzab302.
doi: 10.1093/ptj/pzab302. Erratum in:
Phys Ther. 2022 Aug 1;102(8):
PMID: 34963139; PMCID: PMC9046970.
3) Silva-Batista C, de Lima-Pardini AC, Nucci MP,
Coelho DB, Batista A, Piemonte MEP, Barbosa ER,
Teixeira LA, Corcos DM, Amaro E Jr, Horak FB,
Ugrinowitsch C. A Randomized, Controlled Trial of
Exercise for Parkinsonian Individuals With
Freezing of Gait. Mov Disord. 2020 Sep;35(9):
1607-1617. doi: 10.1002/mds.28128.
Epub 2020 Jun 18. PMID: 32557868;
PMCID: PMC7722148.
4) Ehgoetz Martens KA, Shine JM, Walton CC,
Georgiades MJ, Gilat M,
Hall JM, Muller AJ, Szeto JYY, Lewis SJG.
Evidence for subtypes of freezing of gait
in Parkinson's disease.
Mov Disord. 2018 Jul;33(7):1174-1178.
doi: 10.1002/mds.27417. PMID: 30153383.
パーキンソン病の運動症状の進行に対する高負荷トレーニング
こんにちは!
歩行専門の自費リハビリ施設
ARUKONECT (アルコネクト)の代表
市川です。
本コラムではパーキンソン病の運動症状の進行に
対するトレーニングについてを解説したいと
思います。
パーキンソン病患者さんの運動症状には、
振戦、固縮、姿勢反射障害だけでなく
歩行障害や姿勢障害などの軸症状が
みられます。
その運動症状に対して運動療法を行うことで
改善が得られたとRadderらやTerasawaらに
よって報告されています。
今回は、運動症状の進行に対する高負荷
トレーニングの効果を検証したSenaらの
論文を紹介したいと思います。
Senaの論文では・・・
予測最大心拍数の70%以上の負荷を
かけるトレーニングを「高負荷」として
定義しています。
トレーニング方法としては自転車トレーニング、
固定式リカンベントバイク、ウォーキング、
ジョギング、トレッドミルなどが行われていました。
予測最大心拍数とは・・・
・207-年齢):高齢者の場合
・220-年齢で計算することができます。
例えば40歳の方に70%の負荷を
かけるときを考えます。
(220-年齢)×0.7=126
これが目標とする心拍数です。
運動負荷量を決めるときには
他にもボルグスケールを使います。
どのぐらい「きつさ」を感じているのかを
伺って、負荷量を推定します。
その結果・・・
高負荷トレーニングによって
運動症状の改善が得られることが
わかりました。
また中等度の運動負荷よりも
高い運動負荷の方がより運動症状の
進行に対して効果的であったとしています。
この論文を読んで・・・
負荷が高い方がより効果があるとの結果でした。
しかし、既往歴(いままで心臓の病気をしたことが
あるなど)や飲んでいる薬の影響で高負荷が
かけられないことも想定されます。
闇雲に高い運動負荷をかけるのではなく、
リスク管理を徹底した中で、負荷を適切に
かけた方がと良いのかなと思っています。
本コラムではパーキンソン病の運動症状の
進行に対する(高負荷)トレーニングに
ついてを解説しました。
本コラムが少しでも皆さまの
お役に立てましたら幸いです。
最後までお読みいただき
ありがとうございました。
(執筆日:2023年11月17日)
(執筆者:市川 貴章)
参考文献
1)DLM, Lígia Silva de Lima A,
Domingos J, Keus SHJ, van Nimwegen M,
Bloem BR, de Vries NM.
Physiotherapy in Parkinson's Disease:
A Meta-Analysis of Present Treatment Modalities.
Neurorehabil Neural Repair.
2020 Oct;34(10):871-880.
doi: 10.1177/1545968320952799.
Epub 2020 Sep 11.
PMID: 32917125; PMCID:
PMC7564288.
2)Terasawa Y, Ikuno K, Fujii S, Nishi Y,
Sena IG, Costa AVD, Santos IKD, Araújo DP,
Gomes FTDS, Cavalcanti JRLP, Knackfuss MI,
Andrade MF, Melo PKM, Fonseca IAT.
Feasibility and effect of high-intensity training
on the progression of motor symptoms in adult
individuals with Parkinson's disease:
A systematic review and meta-analysis.
PLoS One. 2023 Nov 10;18(11):e0293357.
doi: 10.1371/journal.pone.0293357.
PMID: 37948405; PMCID: PMC10637666.