リハビリコラム
腰椎 椎間板ヘルニア手術後のリハビリ~その必要性とタイミング~
こんにちは!
歩行専門の自費リハビリ施設
ARUKONECT (アルコネクト)の代表
市川です。
本コラムでは、腰椎椎間板ヘルニア(LDH)の
手術後のリハビリを解説したいと思います。
椎間板ヘルニアとは?
椎間板は『線維輪』と『髄核』があります。
椎間板の中心部分には髄核があり、
その周りを線維輪が包んでいます。
アンパンに例えると、
パンが線維輪、あんこが髄核です。
クッションの役割をもつ椎間板ですが、
ストレスが繰り返し加わることによって
変性してしまいます。
やがて線維輪に亀裂が生じて、
髄核が飛び出し、神経を圧迫します。
すると「痛み」「痺れ」などの症状が
出現します。これがヘルニアの正体です。
ヘルニアの治療での2本柱は、
「保存療法」と「手術療法」です。
保存療法は、手術をしない治療です。
手術療法は、外科的に原因を取り除きます。
手術後のリハビリに関して、世界中で
様々な報告があります。
1.手術後リハビリの効果
1) Changらによると・・・
<内容>
体幹トレーニング実施
(実施しないグループと比べて)
体幹トレーニングを実施することで、
腰痛による日常生活への影響の改善
(Oswestry Disability Index:ODI)・
腰椎の可動域が向上したと報告しています。
※術後3ヶ月以内に実施した効果です。
2)Wangらによると・・・
<内容>
通常の理学療法+牽引療法
通常の理学療法のみ行うよりも、
牽引療法を追加して行うことで、
痛みや腰痛による日常生活への影響
(ODI)が改善されたと報告しています。
徒手療法による効果も検討もされています。
3)Danazumiらによると・・・
<内容>
・神経モビライゼーション
・マリガンのマニュアルセラピー
または脊椎マニピュレーション
<頻度・時間・期間>
週2回・10分・6週間
マリガンのマニュアルセラピーは、
脊椎マニピュレーションと比べて、
痛み・症状の煩わしさ(SBI)・頻度(SFI)の改善、
歩行能力の向上がみられたとしています。
ちなみに・・・
マリガンに比較して、効果が少ないものの、
脊椎マニピュレーションにも効果があったと
しています。
いずれの徒手療法も熟練した技術が
必要ですので、施術者によって効果が
異なる可能性があります。
対して、Wangらにあった牽引療法は、
設定さえ守ることができれば、
施術者による差が出にくいのが特徴です。
牽引療法・徒手療法と続きましたが、
運動療法自体の効果も検証されています。
4)Manniらによると・・・
<内容>
①専門職とリハビリを実施
②アドバイスのみ
③治療なし
専門職とのリハビリでは、
アドバイス・治療なしと比べて、
痛みや腰痛による日常生活への影響 (ODI) が
改善したと報告しています。
※この論文は、椎間板ヘルニアだけでなく、
脊柱管狭窄症やすべり症の術後の患者さんも
含まれており、解釈に注意が必要です。
リハビリの方法によって違いはあるものの、
全体としては、ポジティブな効果が
得られそうであることがわかりました。
それでは、リハビリを行うタイミングで
効果に違いがあるのでしょうか??
2.リハビリを行う必要性とタイミング
1) Uysalらによると・・・
①運動なし
②術後2週間目から歩行練習
③術後1ヶ月目から歩行練習
④術後2週間目から体幹トレーニング
⑤術後1か月目から体幹トレーニング
以上の5つのグループに分け、
それぞれの方法で痛みや機能障害に
どのような効果があるかを検証しています。
【痛み】
術後1ヵ月時点
術後2週後から歩行練習または
体幹トレーニングを行ったグループに
痛みの改善を認めた。
術後3ヵ月時点
術後1ヵ月目後から歩行練習を開始した
グループは、術後2週目から開始した
グループと比べて、痛みが有意に高かった
(強かった)。
術後12ヵ月時点
運動を行わなかったグループは、
その他のグループ(②~⑤)との比べて
痛みの強さが有意に高かった(強かった)。
【機能障害】
術後1ヵ月時点
術後2週目から歩行練習または
体幹トレーニングを行ったグループは
他のグループに比べて機能障害が
改善した。
術後12ヵ月時点
運動を行わなかったグループは
他グループ(②~⑤)に比べて、機能障害が
強かった。
まとめると・・・
椎間板ヘルニア手術後、リハビリを
行うことによって、痛みや機能障害の
改善すると言えます。
この結果をみると、早く始める方が、
一見良さそうに思えます。
しかし長い経過をみると・・・
手術後1ヶ月から開始した場合も、
2週間後に開始した場合と大きな差が
みられなくなります!
『すぐにリハビリしなくて大丈夫?』と
不安になるかと思いますが、手術後の
経過をみながら、安全にリハビリを
行うことが大事かなと思います。
リハビリ専門職は、医師の指示に従うこと、
看護師さん、介護士さん、栄養士さんなど
様々な職種から、院内生活の状況を
聴取することが大切です。
3.手術後の経過
手術後はすぐに退院になることもあり、
『退院して大丈夫かな』不安になられる方も
多くいらっしゃいます。
1)Dorawらによると・・・
①手術後
②術後3ヶ月
③術後9ヶ月
④術後15ヶ月
⑤術後5年
経過を追うにしたがって痛みは、
軽減されたと報告しています。
痛みの強さは、手術後と術後3ヶ月では、
差がみられず、3ヶ月以降に差がみられた
(改善がみられた)としています。
そのため、手術後の注意点を守り、
運動を行いつつ、時間経過も
必要な要素なのかなと思います。
手術後の痛みの強さには、
『今後の雇用に対する考え方(患者さん自身)』
『うつ病」が影響すると言われています。
そのため、必要に応じて心理面のサポート・
内服薬の調節が必要なのかも知れません。
以上のことを考えると、
リハビリ専門職だけでなく、他職種が
連携し、患者さんの治療に携わることが
大事かなと思います。
本コラムでは、腰椎椎間板ヘルニア(LDH)の
手術後のリハビリについてを解説しました。
本コラムが少しでも皆さまの
お役に立てましたら幸いです。
最後までお読みいただき
ありがとうございました。
(執筆日:2023年11月17日)
(更新日:2024年6月3日)
(執筆者:市川 貴章)
参考文献
1)Chang, Min Cheol et al.
“Effect of exercise on stabilizing and strengthening
core musclesfor patients with herniated lumbar disc:
A systematic review andmeta-analysis.
” Asian journal of surgery vol. 47,1 (2024): 731-733.
doi:10.1016/j.asjsur.2023.10.007
2)Wang, Wenxian et al. “Clinical Efficacy of
Mechanical Traction asPhysical Therapy for
Lumbar Disc Herniation: A Meta-Analysis.”
Computational and mathematical methods in medicine
vol. 2022 5670303. 21 Jun. 2022, doi:10.1155/2022/5670303
3)Danazumi, Musa Sani et al. “Effects of spinal manipulation
or mobilization as an adjunct to neurodynamic mobilization for
lumbar disc herniation with radiculopathy:
a randomized clinical trial.
” The Journal of manual & manipulative therapy
vol. 31,6 (2023):408-420. doi:10.1080/10669817.2023.2192975
4)Manni, Tiziana et al. “Rehabilitation after lumbar spine
surgeryin adults: a systematic review with meta-analysis.
” Archives ofphysiotherapy vol. 13,1 21. 16 Oct. 2023,
doi:10.1186/s40945-023-00175-4
5)Uysal, E et al. “The necessity and timing of exercise after
lumbar disc herniation surgery.” European review for
medical andpharmacological sciences
vol. 27,20 (2023): 9521-9529.doi:10.26355/eurrev_
202310_34125
6)Dorow, Marie et al.
“The Course of Pain Intensity in Patients
Undergoing Herniated Disc Surgery: A 5-Year Longitudinal
Observational Study.” PloS one vol. 11,5 e0156647. 31 May.
2016, doi:10.1371/journal.pone.0156647